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2016.11.04

一歌談欒 参加記事

3番線快速電車が通過します理解できないひとは下がって/中澤系

はじめてこの歌に出会ったのが、中澤系歌集だったか、穂村弘の著作の中の引用歌としてだったのか、もはや記憶がない。
この歌は不思議な歌だ。
歌の中に、理解できない語彙(=辞書を引かなければ意味が取れないような言葉)はひとつもないのに、
一首の形を成したとたん、つかみどころのない歌に変容してしまう。

3番線快速電車が通過します

駅のホームでよく聞くアナウンスだ。
よくわかる。
駅員のルーティンとして、定型文がアナウンスされている。
録音されたものが流れている場合もあるだろう。ホームが複数ある、そこそこ大きな駅。だが、快速は止まらない。
都心のターミナルから20分、ぐらいの駅だろうか。なんとなく。

理解できないひとは

何を、という目的語は不明だが、この世界には、理解できないひとと、理解できるひとがいる、という認識が提示されている。
この認識はわかる。

下がって

いまいるところから、下がることを要請される。
最初のアナウンスと同じ声だとしたら、ここは「下がってください」「お下がりください」となるところだろう。
だが、ぶっきらぼうに「下がって」と言われるから、びっくりする。
ここで声が変わる。

***

「理解できない」の目的語の欠落と、声の変化により、
わたしはこの一首の中に閉じ込められる。
それからずっと、脱出することができない。
乱暴に「下がって」としか言えない誰かの声。
いまにもただならぬことが起こりそうな、不吉な予感。
それをひりひりと感じ続けるしかない。

***

この歌が作られた時に比べれば
ホームドアが設置されるようになって、駅は安全度を増したと思う。
ホームドアがなかった頃を思うと、ずいぶん野蛮な世界に生きていたものだ、とも思う。
(もちろん、まだすべての駅のホームにホームドアがあるわけではないけれど。)

では、世界は安全度を増したのだろうか。
わたしには「下がって」の声は、どんどんボリュームを上げているように感じられてならない。

***

この一首がすごすぎて、わたしは「中澤系プロジェクト」という歌集復刊の活動を始めました。
さまざまな巡り合わせと、中澤さんのご家族のご協力で、
歌集の形で読んでいただけるようになりました。

現在、ネットでは少し時間がかかりますが「ホンヤクラブ」での入手が可能となっています。
2016年11月23日(水・祝)文学フリマ東京「ないがしろ~亥年限定歌人集団」ブース【ウ-72】でも販売します。文学フリマに行かれる方は、ぜひ手に取ってごらんになってみてください。
系さんの妹さんである書家の中澤瓈光(りこう)さんが、ブースにおられます。
中澤系歌集『uta0001.txt』(双風舎)

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